最近会った人に「ホームページ見てるよ!」と言われることがちょこちょこあって、いろんな方が見てくれていることを知ったので、少しずつでもブログを更新しようと思います。
また、私の書いた記事を読んで、後輩がわざわざ東京から渡米前に会いに来てくれたり、「奏子さんの記事を読んで私もいろんなことにチャレンジしようと思いました!」と言ってくれる方がいたので、自分が思っている以上に人に影響を与えることがあるのだなと思いました。これまではサイエンスに関することのみをブログに書こうと考えていたのですが(研究者のブログだし)、結婚して母親になった観点から生活の両立についてとか記しておくことも意外と求められているかも、と考え、幅広く感じたこと・考えたことを書くようにしようと思います。また、学生と教員の間の立場で、まだ学生寄りの視点を持っているうちに自分の思っていることを綴っておくことは、自分が教員や指導する立場になったときに忘れてしまうであろうことを思い出すきっかけになると思うので。。。「PIになったときにこれは真似したい/これだけはやっちゃいけないリスト」は今後どこかで公開しようかなと考えています(笑)
最近あったことで書きたいなと思ったのは、女性研究者のキャリアセミナーについてです。
2月の中旬に、フランスのCNRSでディレクターをされているNabila Aghanim博士の講演を聞きました。講演の主題は、博士の研究者としてのキャリアについてで、博士の幼少期〜学生〜ポスドクを経て現在のポジションに到るまでのお話と、国際グループのリーダーとして、国籍や宗教もバラバラな40人のチーム(90%が男性)をまとめあげた話、娘を出産してからの仕事との付き合い方について、などたくさんのお話が聞けました。こう書くと、『あぁ、なんだ。また女性研究者のロールモデルの話か。』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かにテンプレぽい流れですし、努力と運とそして続けることが大事、という結論には変わりがありません。でもそれは女性だけに限ったことではないです。男性研究者にも同じ要素が当てはまりますし、ポジションを得た人々はきっと上の3つを遂行してきたはずです。下村先生だって、山中先生だって、大隅先生だって、みんなそうだと思います。
では「女性」に限定して、キャリアの築き方について大々的に広告をして講演会を行うのはなぜなのか?
私はずっと疑問でした。だって、「ちゃんと物事を論理的に見れて、努力してて、続けることができる人」なんて男女どちらにも当てはまる研究者として必要な要素じゃないですか。
けれど、自分が妊娠・出産して少し考え方が変わりました。
女性はこの3つのことを人生を通じて、ずーーーーっとコンスタントに続けるというのは多少困難があると。以下にそう考えた理由を書いていきたいと思います。
1. 出産直後の子供はほんと乳が無いと無理。あと、妊娠中はホルモンバランスで精神が不安定になったりしがち。
子どもは乳をくれる人がいないと泣きます。特に生後3ヶ月は授乳の回数も頻回だし、お父さんが肩代わりをしようと思ってもなかなかうまくいきません。哺乳瓶を嫌がる子も多いし。そして授乳をすると特に何もしていないのに疲れます。仕方ないですよね、だって母乳は血液から作られるのだから。頭もちょっとボーっとするし、体はだるいしで、なかなか元の生活に戻りづらい。
順番は前後しますが、妊娠中はホルモンバランスが変化して、妊娠前とは異なる状態になるため、急に塞ぎ込んだり今後の人生をネガティブに捉えがちになります。私はなりました。ちゃんと五体満足で生まれてくるのかな、この子を養っていけるだけの給料を稼げるかな、とか。
2. 子どもに対する愛情は、父より母の方が深いんじゃないか疑惑。
夫が子どもを愛しているのはわかるのですが、見ていると私よりも接し方がドライというか、割り切って接してる感があります(こんなこと書いたら怒られるかも笑)。例えば、帰宅して息子に挨拶しても、仕事がまだ残っている場合はパッと切り替えて仕事モードに切り替えれる感じ。いや、こんなにも愛くるしい顔して『ねえ、遊んで』って迫ってきてるのに、断れるの?え?鬼なの?と思ったりします。こういった切り替えの出来不出来は女性と男性の差なのでしょうか。自分の体内に9ヶ月いたということが、このような愛情の深さ、というかもっとこの子をケアしなきゃという気持ちに繋がるのかもしれません。
3. 周囲からの目。
これは気にしなければいい、というご意見はごもっともなのですが、やっぱり幾ばくかはあるかと思うので記載しておきます。日本だと、という国によるフィルターはあるのかもしれませんが、やはり『子供の面倒は母親が見るもの』という通念は強く残っている気がします。私たち両家の両親は割とリベラルな方かと思いますが、それでも息子が風邪をひいたりすると「かなちゃん、お仕事休んでもいいんじゃない?」と言われたりします。仕事の重要度はどちらも同じだ、と思いつつ、息子可愛さと夫や夫の両親に対して良き妻であろうとする姿勢の表れで、その言葉を甘んじて受け入れることもしばしば。。。
1は女性の生理学的な問題、2は本能的(?)な問題、そして3は社会通念的な問題だと思います。1は明らかに男女の差ですよね。男性は妊娠することが不可能なので1の問題は起きないわけですし。2も性別の差によるもの...かな?ある程度訓練したら(息子の可愛さに打ち勝つ強い意志を持つことができれば)克服できる問題かもしれません。そして3は性別には依存しません。周りの考え方、すなわち日本や東アジア諸国によく見られる「女性は家庭を守るべき」というconservativeな通念によるものだと思います。一方で北欧を中心にヨーロッパ諸国では、男女平等の意識が強く女性の社会進出度合いが高いため、経済や政治に与える影響も大きいことが報告されています(Global Gender Gap Report 2016)。ヨーロッパ諸国では社会的な通念として「男性はこう、女性はこうあるべき」といったラベルづけが無いのでしょうか。
Aghanim博士によると、フランスでは東アジアに見るような保守的な通念は無いとのことでした。博士自身はアルジェリア出身で、アルジェリアでは女性には学問はいらない、といったかなり強い保守派の考え方が未だに残っていると苦笑されていましたが。このように社会的な通念によって女性の持つ意識というものが変化するという点は非常に興味深いです。アジア生まれでもヨーロッパで育てばヨーロッパ的な考えに染まるのか、短期間でも効果はあるのか、とか。博士は学部までアルジェリアで育ったということで、自分の性格の根本は保守的なんだけれどもフランスで生まれ育った娘はフランス人的な考え方を持つとおっしゃっていました。
上にあげた3つの理由はどれも子どもを持つことが関係してきます。すなわち独身、もしくは夫婦二人だけなら特に支障は無いわけです。バリバリ仕事して、学会も懇親会も好きに参加して、いろんな人と夜遅くまで議論して、、、という生活を私も子どもを持つまではずっとしてきました。そしてそうすることで、いろんな人との繋がりを作り、刺激の多い日々を送ってきました。しかし、自分の人生において結婚して子どもを持つということは絶対に叶えたいことでしたので、そうしました。上記の3つは、子どもが小さいうちの期間限定の問題かもしれません。しかし、自分がバリバリ働ける時期で、かつ業績を稼ぎたい時期に研究にフルコミットできないことは非常にストレスがかかります。この時期に同期や近い年代の人と差が生まれてしまうことで、自信を無くし研究者としてはもうやっていけない。。。と考えるようになることは十分にありえます。後から振り返ってみれば『あぁあれは一時的な問題だったな。子どもが大きくなってからは徐々に問題にはならず私も研究を続けられたな。』と思うことからもしれませんが、直面している現在は、この状態がずっと続くんじゃないか。。。子どもがもう一人増えたらもう仕事になんてならない。。。と考えてしまいます。こういったネガティブな考えが、女性研究者あるいは女性が人生を通じて仕事を続けることを難しくする要因になっているのではないでしょうか。なので「ちゃんと物事を論理的に見れて、努力してて、続けることができる」という3つの要件の、最後の「続ける」という部分が最も難しいのです。
妊娠出産関係なく、女性に共通の問題点としてよく挙げられるのは「女性はもっと自信を持ちなさい」というものです。女性は男性に比べて自信が無く、迷惑をかけることはできないから、と昇進のチャンスがあっても断る人が多いそうです。また、パーマネントのポジションに応募して諦める回数の上限というのは、男性が平均5回なのに対し、女性は2回だそうです。2回書類を出してダメだったらもうパーマネントのポジションは諦めるとのこと。なんと。。。
たとえ能力があっても、その人自身が『やってみたい』と手を上げなければ掴みとることはできない。いつまでも塔の中のお姫様で、連れ出してもらうのを待っているのではなく、自分から外に出ていく勇気を持たなければならない。ということなんだと思います。
女性に比べて男性の方が自信を持ちやすい、というのは男性ホルモンの一種であるテストステロンに起因するのでしょうか?このホルモンはがっしりした筋肉や太い骨格、ヒゲといった男性らしさを維持するホルモンですが、筋トレするとこのホルモンが出て、「俺はやってるぜー!やってやるぜー!やり遂げたぜー!よっしゃー!」という全能感に陥りやすいとのことですので、自信のない女性でも筋トレをすれば自信が出てくるのかもしれません。ちなみに私はTwitterのテストステロン先生、大好きです。
この記事を書いている途中で夫に「知らない研究者(男性)のキャリアセミナーがあります、という内容のポスターが壁に貼ってあったら行く?」と聞いてみました。すると即座に「行かない」と答えが返ってきました。しかし、その研究者のやっている研究内容のセミナーで、かつ興味があれば行くとのことでした。例えば下村先生に「発光のことを話してください」と頼んだら、それはすなわち彼の研究人生、キャリアを話すことと同義になるので、わざわざ「キャリアセミナー」とは銘打ったものにはならないでしょうね。。。
夫は「そもそも各研究者の個人的な経歴の話なんて、by chanceであって、一般化できないのだから、誰の話であってもそういった類の話は聞きに行かない、たとえそれが下村脩であっても。」とのことでした。ぬぬ、徹底しておる。。。
確かに、キャリアセミナーというのは各研究者の個人的な経験に基づくものであり、n=1なわけですから一般化は難しいです。それでも「家庭と研究を両立するには」とか「研究をうまく回すためのインフラ活用術」のようなtipsを少しでも学ぶことはできますし、あと何より女性研究者でポジションをとって、バンバン活躍している人がいるということを目の当たりにするということに勇気をもらう、というところに意味があるのではないかと思います。女性の方が男性より人の話に影響されやすい印象があるので、いい方向に影響を受け『先達のように活躍するぞーーー!!』という気合いが湧いてくるのではないでしょうか。少なくとも私はそうです(笑)
一種のセルフモチベーションですね。セミナー2時間聞くだけで、悩みが一旦解消され、その後〜半年くらいは(先達を目標に、これはおそらく無意識下で)研究にも邁進できるわけですから割とコスパいいカンフル剤だと思います。
まあ夫にはそういったものは必要ないので、2時間/半年が無駄になると感じるのでしょうが。。。笑
なんだか話がいろんな方向に飛んでしまいましたが、タイトルの質問に対しての私の答えは「必要」です。ただタイトルをもっと工夫して、女性だけでなく男性の参加を促進するものにしてほしいものですが。そうすることで、奥さんが今後の進路に悩んでいる時、「きっとそれは君ががんばりすぎているんだよ。もう少しペースを落としても大丈夫。育児がもう少しして軌道に乗れば、きっとそんな悩みも無くなるよ」と支えるパートナーを量産できると思うのです。
女性が活躍する社会を作るには、女性自身の意識改革ももちろん必要ですが、夫や周りの理解・協力、保育園や家事代行などのサービスの充実が大事です。1点だけを集中的に推し進めるのではなく、全ての点を底上げできるうまい仕組みが何かないかなぁ〜と考える今日この頃です。
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