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執筆者の写真Kanako

2010年代に入ってのイネゲノム研究

更新日:2022年5月27日

たくさんの系統の全ゲノム配列を読むというのが普通になってきた今日この頃。次世代シーケンサーの発達および解析技術の向上に伴い数十に止まらず数千系統よむということもままあります。そのような潮流の中、イネのゲノム研究は2010年代に入ってどのような変遷を辿っているのか、まとめてみました。私の興味が栽培化にあるため、その分野に偏って論文をチョイスしています。それにしても大規模解析をしている論文はNatureもしくはNature Geneticsに出ていますなぁ。



・2002年にイネのドラフトゲノムが決定。

Goff SA, Ricke D, Lan TH, et al. A draft sequence of the rice genome (Oryza sativa L. ssp. japonica). Science (2002) Apr 5;296(5565):92-100. doi: 10.1126/science.1068275.


2005年にイネの全ゲノムが決定。日本の佐々木卓治先生を中心にO. sativa japonica Nipponbareのゲノムが読まれ、ゲノムサイズが389Mb、37,544の遺伝子が存在すると推定された。

International Rice Genome Sequencing Project., Sasaki, T. The map-based sequence of the rice genome. Nature 436, 793–800 (2005). https://doi.org/10.1038/nature03895


・2012年にアジアイネ、O. rufipogonとO. sativa合わせて1529系統をもちいた大規模ゲノム比較がおこなわれ、アジアイネの起源地および純粋な祖先グループがほぼ確定O. sativa japonicaは中国南部の珠江中流域でO. rufipogonの特定の集団(Or-III)から最初に家畜化されたこと、O. sativa indicaは初期の品種が東南アジアや南アジアに広がるにつれて、japonicaと地元の野生米との交配から発展したことが明らかになった。

Huang, X., Kurata, N., Wei, X … Han B. A map of rice genome variation reveals the origin of cultivated rice. Nature 490, 497–501 (2012). https://doi.org/10.1038/nature11532


・2014年、O. glaberrima 20系統およびO. barthii 94系統をもちいた比較ゲノム解析によりアフリカイネ栽培化の起源地がニジェール川流域の単一地域であり、Ob-Vがおそらく純粋な祖先グループであることが示された。(この結論についてはその後いろいろと反証論文がでているので、それらは後述。)

Wang, M., Yu, Y., Haberer, G. … Rod A. Wing. The genome sequence of African rice (Oryza glaberrima) and evidence for independent domestication. Nat Genet 46, 982–988 (2014). https://doi.org/10.1038/ng.3044


・2016年、93のO. glaberrima在来種のリシーケンスデータを用いて232万SNPマップを作成。約13,000~15,000年前に集団のボトルネックが発生し、約3,500年前に有効な集団サイズが最小になっていることがわかった。

Meyer, RS, Choi JY, Sanches M, … Purugganan MD. l. Domestication history and geographical adaptation inferred from a SNP map of African rice. Nat Genet 48, 1083–1088 (2016). doi: 10.1038/ng.3633.

・2018年1月、Oryza 13種のゲノム比較により、迅速な種分化には染色体レベルでのリアレンジメントよりもトランスポゾン(特にLTRレトロトランスポゾン)の挿入や、新規のコーディングもしくはノンコーディング遺伝子の獲得が寄与していることがわかった。特に長鎖ノンコーディングRNAや新規ファミリー遺伝子はゲノムの反復領域に局在することが多かった。またAAゲノム種では挿入変異よりも欠失変異が優先的に起こることが示され、これは後生動物の系譜と同様であった。(Fig. S12に示されているインデル頻度の図は興味深い。)

使用した13種の内訳:O. sativa vg. indica cv. IR8, aus variety N22, O. rufipogon, O. nivara, O. barthii, O. glumaepatula, O. meridionalis, O. punctata (BB), African outgroup species Leersia perrieri + previously published genomes (O. sativa vg. japonica (AA) and indica (AA), O. glaberrima (AA) and O. brachyantha (FF))

Stein, J.C., Yu, Y., Copetti, D… Rod A. Wing. Genomes of 13 domesticated and wild rice relatives highlight genetic conservation, turnover and innovation across the genus Oryza. Nat Genet 50, 285–296 (2018). https://doi.org/10.1038/s41588-018-0040-0


・2018年2月、ディープシーケンサーHiSeq2500を用いて、66の分岐した系統をde novoでアセンブルし、O. sativaとO. rufipogon汎ゲノムデータセットを構築。(maize pan-genomeは2014年)ディープシークエンスする前に、2012年Natureで用いた1529系統の表現型および地理的情報をもとに分岐度合いを調べて、その中からばらけている66系統を絞り込んでいる。Nipponbareレファレンスゲノムには存在しない、新規遺伝子の同定もなされた。遺伝子のPAV(Presence–absence varitaion )によると、60系統以上(コレクションの90%)に存在する遺伝子は26,372個、60系統以下に存在する遺伝子は16,208個あり、これらをコーディング遺伝子のコアゲノムセットと任意利用ゲノムセットと定義している。任意利用ゲノムセットの中には、生物・非生物ストレスに応答するものが多く含まれていた。

RicePanGenome databaseはこちら→ https://cgm.sjtu.edu.cn/3kricedb/

Zhao Q, Feng Q, Lu H … Han B, Huang X. Pan-genome analysis highlights the extent of genomic variation in cultivated and wild rice. Nat Genet (2018) Feb;50(2):278-284. doi: 10.1038/s41588-018-0041-z.


・2018年4月、O. sativa 3,010系統のゲノムを読む、rice3kプロジェクト(3K RGP)が始動。Beijing Genomics Institute (BGI)と国際イネ研究所(IRRI)が中心となって行われ、89カ国から集められたOryza sativa 3,010系統のゲノムが平均14x、平均ゲノムカバー率は94.0%、マッピング率は92.5%でリシークエンスされた。日本晴の参照ゲノムにアラインしたところ、イネのSNPが約1,890万個発見され、O. sativaにおけるゲノムの多様性をより詳細に理解することができたと述べている。

Wang, W., Mauleon, R., Hu, Z … Zhikang Li & Hei Leung. Genomic variation in 3,010 diverse accessions of Asian cultivated rice. Nature 557, 43–49 (2018). https://doi.org/10.1038/s41586-018-0063-9

3K RGPのデータはこちら→ http://gigadb.org/dataset/200001


・2018年7月、246系統のO. glaberrimaの全ゲノム配列をもちいて再度起源地の推定がなされた。結果は2014年のときと同様、ニジェール川流域(デルタ内陸部)であることが示された。栽培化に先立って、1万年以上前からほとんどの野生個体群が急激に減少。野生個体群の減少は、サハラ砂漠の乾燥期に起こったものと推測され、この結果はサハラにおける野生資源の枯渇がアフリカの稲作を誘発したという仮説を支持するものであった。アフリカイネの栽培化は約2000年前から活発化したが、ここ最近の500年の間にアジアイネがアフリカに導入されたのと同時に、アフリカイネの栽培は急激に減少した。また、イネ栽培化に関わった遺伝子として直立の草型を示すPROG1はアジアイネ、アフリカイネ両方で選抜されたが、脱粒性に関わるSH5遺伝子はアフリカイネでのみ選抜されたことが示された。

Cubry P, Tranchant-Dubreuil C, Thuillet AC, et al. The Rise and Fall of African Rice Cultivation Revealed by Analysis of 246 New Genomes. Curr Biol (2018) Jul 23;28(14):2274-2282.e6. doi: 10.1016/j.cub.2018.05.066.


・2018年10月、Oryza longistaminataのゲノムをPacBioをもちいて決定。この頃には1つのラボだけで1種のゲノムを決定できるようになっている。全長351 Mbのうち、92.2%がイネの12本の染色体に固定されていること、また34,389個の遺伝子が検出され、ゲノムの38.1%が反復配列により構成されていることが明らかとなった。

Reuscher, S., Furuta, T., Bessho-Uehara, K. et al. Assembling the genome of the African wild rice Oryza longistaminata by exploiting synteny in closely related Oryza species. Commun Biol 1, 162 (2018). https://doi.org/10.1038/s42003-018-0171-y


・2019年3月、O. glaberrimaとO. barthii 206系統の全ゲノム配列を用い集団構造解析をおこなったところ、異なる地理的地域に位置する5つの遺伝子クラスターが明らかになった。ゲノム全体の系統関係からは、東部の栽培地域が起源で、その後、大西洋沿岸で多様化したと考えられたが、栽培化遺伝子のさらなる分析では、南西部に独特のハプロタイプが見られ、いくつかの重要な栽培化形質のうち少なくとも1つは南西部が起源である可能性が示唆された。これらの結果から、アフリカのイネの起源については、一般的に受け入れられている中心的なものではなく、非中心的または多中心的なものとして再考する必要があると考えられる。

Veltman MA, Flowers JM, van Andel TR, Schranz ME. Origins and geographic diversification of African rice (Oryza glaberrima). PLoS One. 2019 Mar 6;14(3):e0203508. doi: 10.1371/journal.pone.0203508. PMID: 30840637; PMCID: PMC6402627.


・2019年3月、282系統のO. glaberrimaとO. barthii のゲノム配列をもちいて栽培化に関わる遺伝子を系統地理学的に解析した結果、栽培化の原因となる突然変異の起源は、西・中央アフリカの複数の異なる場所に存在する野生イネの前適応種にまで遡ることができることがわかった。これらの証拠から著者らは、O. glaberrimaは単一の中心地において栽培化されたのではなく、複数の地域において異なる栽培化形質の主要な対立遺伝子が獲得され現在の品種が確立したと主張している。

Choi, J. Y., Zaidem, M., Gutaker, R., Dorph, K., Singh, R. K., & Purugganan, M. D. (2019). The complex geography of domestication of the African rice Oryza glaberrima. PLoS genet 15(3), e1007414. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1007414


・2020年、これまで難しいとされていたO. glaberrimaの形質転換をCRISPR/Cas9を用いて成功させた。gRNAを設計する際に、sativaの配列を参考にするだけでなく周辺領域も含めてシークエンスしてターゲットサイトを決めているところに真摯さを感じる。

Lacchini E, Kiegle E, Castellani M, Adam H, Jouannic S, Gregis V, Kater MM. CRISPR-mediated accelerated domestication of African rice landraces. PLoS One. (2020) Mar 3;15(3):e0229782. doi: 10.1371/journal.pone.0229782.


・2021年、野生イネかつ異質4倍体のOryza alta (CCDD)の形質転換に成功。de novo domestication(新たな栽培化)を提唱し、分子育種の新しい歴史の幕開けとなった。

Yu H, Lin T, Meng X, … Jiayang Li. A route to de novo domestication of wild allotetraploid rice. Cell (2021) Mar 4;184(5):1156-1170.e14. doi: 10.1016/j.cell.2021.01.013.



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