2019年8月24日にスタンフォード大学にて、夫と講演をしてきました。Stanford Meetupと名付けられたこの会では、スタンフォード近辺でResearch Scholarとして留学・就労されている日本人研究者の方に向けて、自身の研究を30分程度プレゼンするというもの。自分の研究を知ってもらう+スタンフォード近辺にいる研究者との交流を深めようという趣旨の会でした。
以前に一度聴衆として参加したことのある会でしたが、エンジニアや医療関係の方が多く、私や夫のように基礎科学に傾倒している方はほとんどいないという印象でした(もしかしたらお話しできていないだけで、いたかもしれませんが…)。なので、どうしたら基礎科学の、しかも植物の研究の面白さを伝えられるかなぁと頭を悩ませていました。
私の発表は夫の後。夫は発光生物、しかも深海に住む発光生物の研究をしています。光るというだけでも皆食いつくのに、そこに「深海」なんていうキーワードが入ったらお客さんはみんなそちらに注意が向いてしまって、植物の茎が曲がってどうのこうの、という私の話には全く興味を持ってくれないのでは、と恐れていました。
さらにちょうど8月上旬に参加していた国際学会ASPB (American society of Plant Biology)では以下のようなチラシが配られていたので、ダブルパンチ。
なんで植物は面白くない、興味ないと思われているんだろう、と逆に不思議に思いました。
過去記事にも書きましたが、私が植物の研究をしようと思い立ったのは、植物が一次生産者であり人間の消費カロリーの1/3が穀物により支えられていることが大きな理由でした。カロリー供給のメインとなる穀物(お米、パン、パスタ)だけでなく、野菜や果物、ビールなどの飲料、薬品、化粧品、紙や家具なども多くが植物に由来しています。植物によって二酸化炭素は酸素に変換されますし、話題のバイオプラスチックも植物の作る二次代謝産物がメインの材料です。すなわち植物がなければ多くの生物は生きていけないんです。なのになぜ植物に興味を持ってもらえないのか。
理由はなんとなく推察できます。
植物は「動かないから」「地味だから」面白くないのではないでしょうか。
恐竜とか動物は目もあって手足もある、すなわち自分に近いものだから親近感が湧く、同族愛。深海生物は形こそ自分たち人間とは似ても似つかないけれど、そもそもなんで深海に住んでるの?この形に意味があるの?という興味が湧き、さらに近年テレビや雑誌でも深海特集なるものが組まれることによる興味の増加が引き起こされている。動物も昆虫もPIXARで"PET"や"BUGSLIFE"なる映画が放映されることにより、子供人気も常にキープ。一方植物は...葉っぱがあって茎があって根っこがあるのが植物、CO2をO2に変えてくれるのが植物、日常の癒し的な存在。以上。という感じではないかしら?というかそもそも子供向け番組にも植物を題材にしたものって無さすぎません?本屋に行けば、「恐竜」「昆虫」「ロボット」「動物」「海の生物」、ましてや「深海生物辞典」なるものが存在するのに、「植物」をメインキャラクターにしたアニメなんてほとんど見たことありません。幼児期からの昆虫や深海生物への刷り込みが、子供たちの植物離れを引き起こしていると言っても過言ではない(過言です)。
というポイントを皮切りに、植物は地味で面白くないって言われているけれど、植物は実は動くし、地味じゃないんだよってことを浮きイネや虫こぶを題材に30分間主張しまくりました。
浮きイネは、アジアの洪水地帯で栽培されているイネで、洪水が起きるとその水位に合わせて茎を伸長させ(イネ業界では節間伸長と言います)、葉を常に水面に出すことで呼吸を維持しています。名古屋大学の芦苅研究室ではこの節間伸長に関わる分子機構の解明に取り組んでおり、これまでに浮きイネの持つ特異的な遺伝子をいくつも発見しています。(参考文献:Hattori et al., Nature, 2009; Nagai et al., AOB, 2014; Kuroha et al., Science, 2018)
細かい分子機構はおいておいて、浮きイネが1日に10cm以上も伸びるムービーと遺伝子マッピングの方法について簡単にお話ししました。
遺伝子を見つけることは、また分子機構がわかることはなぜ大切なのか?
単純に知りたいからというだけではありません。遺伝子や分子機構を知るということは、パソコンや車がなぜ動いているかを知ることと同じなのです。車Aは車Bより早く走ることができる、それは車Aの持つ部品Cの性能がいいからだと知れば、車Bにも車Aの持つ部品Cを導入して速い車を作ることができます。それと同じなのです。浮きイネは節間伸長して洪水環境でも生き延びられる。それには遺伝子Xが重要な働きをしている。じゃあ普段私たちが食べているお米にも遺伝子Xを導入して洪水に強いお米を作りましょう。と、そういうことなのです。またそれに付随して起こる分子機構を知ることができれば、遺伝子そのものをいじることなく、例えば薬剤を投与することで遺伝子Xを導入したのと同じ現象を誘導できる、というより簡便な方法を見つけることができるかもしれません。
私の研究の最終的なゴールは研究者界隈だけにウケる研究をするということではなく、やはり研究成果で社会になんらかの貢献をしたい。今は「育種」という側面から物事を語るけれども、今後は「環境保全」や「生物多様性」といったところも視野に入れて、自分の研究を語れるようになりたい。
虫こぶについても書こうと思ったけれど、長くなってしまったのでまた今度。
幹事のお二人、そして講演を聞いてくださった皆様、本当にありがとうございました!
講演者+聴衆の皆様で集合写真。
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